『アカイヒト』を語る1(遠山智子)_狂気文書_映画:『狂気の海』 | CineBunch

■ 『アカイヒト』を語る1(遠山智子)

20080623111441.jpgアカイヒト』は、美学校映画祭スカラシップ作品として製作されました。

 
制作は植岡喜晴氏にお願いしました。ただ、この作品が結果的に予算オーバーし、ほぼ自主製作となったことは、制作が植岡さんであったこととは無関係です。

 
スタッフは、美学校2期の数人が中心となり、プロの美術さんである黒川通利氏、そして美学校6期の数名も結集しました。
キャストは、ほぼあて書きだったこともあり、まずはお願いし、比較的スムーズに決まりました。

 

撮影は、城ヶ島、足尾、渡良瀬、鎌倉、千葉、都内数カ所にて行われました。城ヶ島の洞窟の撮影時、夜明け前、潮が引き洞窟から水が無くなる瞬間を待ち、準備を開始しました。
ゼネやドラムを崖からバケツリレーで降ろし、洞窟の中へ。

 
ロケハン時に初めて出逢った、かつて見たこともない生き物たちがやはり今日も同じ姿勢でそこに居ましたが、照明をたくと音もなく一斉に姿を隠したので、それ以後"あいつら"のことは禁句、役者の人たちには終始内緒、「天井に気をつけてください...」とだけ一言、申し上げました。

 

 この作品の一つの要は、美術の黒川氏でした。ちょうど他の現場の仕事も掛け持っていたようでしたが、決して妥協することなく真剣に仕事に打ち込み、「黒さん」の呼び声にいつもニコニコと参上する姿は、まるで神様でした。

 

また、黒川氏の指示により、美学校6期中心の美術班も奮闘。様々なカタツムリを見つけてきてくれたり、奇怪な人形を作ったり等々してくれました。

 

役者さんには、手を黒く塗り、蜘蛛の巣を張り、木の根っこを絡ませ、頭に電飾を仕込み、といった色々をしてしまいましたが、皆さん素晴らしい方々で、結果、物語にしっくりと溶け込んだと思います。

 

撮影機材は8ミリカメラです。いままでの作品が16ミリやビデオなので、初めての試みでした。植岡さんに仰いでも笑みを浮かべて見ているだけ、手探りでの撮影、数々失敗もしましたが、結果的にこの作品に一番合った画面がつくれた、と思います。セリフは全てエスペラント語です。たまたま友人から、隣りに住んでいる女の子が魅力的な声をしている、と聞き、紹介してもらいました。声もカンもよく、助けられました。

 

ところで、映画を撮ることは、私にとってはリハビリに近い作業です。『アカイヒト』ではそれまでの反省もあり、初めて組むスタッフもいたので、今更ながら、意思の共有をまず心がけました。どれだけ伝わっていたのかは定かではありませんが、その後の作品づくりに活かされる力が、微量ながら養えたと思っています。リハビリの甲斐あって少し歩けたときはいつだってうれしく、まだもう少し頑張ろうと思えるものです。

 

全体を通して本当に楽しい撮影でありました。そして今回、久しぶりに記憶を手繰るうちに、どうやら、植岡さんが主役の現場だったように思えてくるのでした。映画をよくしようという植岡さんの強い気持ちが、エプロン姿でまかないを配膳する姿、城ヶ島の雨降らしシーンで、ホースの水を九割がた自分にかけてしまっている姿、渡良瀬の朝靄シーンで、髪をなびかせながら発煙筒を振り回し駆けてゆく、あの魔術師のような姿となって、くっきりと心に蘇ってくるのです。あのまたとないスタッフ・キャスト陣が集まり、出逢えたのも、植岡さんのおかげと感謝しています。