高橋セレクション "12+1"アーカイブ_映画:『狂気の海』 | CineBunch

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Yesman.jpg2002年/70分/DV

 
監督:松村浩行 撮影:秋元エマ ドイツ語監修:渋谷哲也
出演:Felix Owusu、永野雄太、凌雲鳳、Pol Malo、Edriss Alexis
 
■ 能曲「谷行」を翻案したブレヒトの学校オペラ「イエスマン(初稿)」「ノーマン」「イエスマン(改定稿)」の映画化。病気の母親のため、薬を求めて山越えの旅に随行した少年は自らも罹病してしまう。
少年の「処置」をめぐる結末とは‥‥。
「MORE YESMAN」に対するさらなる<NO>の可能性が見る者への問いとして突きつけられる。
 
● これは第一回美学校映画祭で見て驚いた。傑作だった。一見同じに見える芝居にその都度のバージョンがあり、それぞれに真実があるというのは、おそらく演劇ならではの発想だと思うが、同じことが簡単にできてしまう映画はこういう反復にたいがい無力をさらけだす。だいたい時制を戻すだけでもいちいち大変だ。それを作者は三度繰り返すという冒険に挑み、その反復に耐えるだけの緊密な芝居を作り上げたのだから、よくぞ成し遂げたと思う。三幕目が始まった時はおお!と心の中で快哉を叫んでいた。
(黒沢清)

akai.jpg2004年/62分/8mm→DV

 
監督:遠山智子 撮影:大城宏之 美術:黒川通利
出演:山崎和如、久代真喜、隅達昭、小水一男
 
■ 昏睡の続く妹、園(ソノ)を捨てるために"世界"へやって来た兄、九地(クチ)。とある宿で、二人は束の間、最後の日々を過ごすはずであった。しかし、宿の使用人、御項(ゴウナ)が園を見初め、森に住む女が九地を見初め、 園が"世界"を追放されつつある青年を見初めたことから、"世界"の秩序は少しずつ崩れ始めていく。
 
★ 映画美学校映画祭スカラシップ作品
 
●『夜半歌声』『夜半歌声・続集』の怪奇スチール群を見た時のような高揚がありました。一つはやはりフィルムの再撮(8ミリ→DV)が放つ不可思議な魔力の可能性ということなんですが、とにかく妖しく風に触れるシダの葉とか、あの素晴らしい蜘蛛の巣とか、鬼女のごとく伸びてくる手とか、暗い森の中にたたずむ男女へのズーミングとか、紛うことなき怪奇映像がそこら中にありましたね。(略)それは映画でいえばサイレント映画の語りに近く、最近、アレクサンドル・メドヴェトキンの『幸福』など見ると、いよいよその思いが強くなります。つながっていながら、かつ断片であり続ける怪奇映像。ドライヤーの『吸血鬼』などはそういうものに見えるから怖く、だからそれがあっさり達成されたりすると、僕は困ります‥‥。
(高橋洋)
 

ame.jpg2005年/36分/DV

 
監督・脚本・撮影:浅野学志
出演:藤田竜介、土井賀代、緒方友梨佳、緒方亜弥佳 語り:遠山智子
協力:井上恵美子ダンスカンパニー
 
■ 見なれた景色のはずなのに、いつもより飛行機が多すぎる朝。双子の姉妹、有香と亜樹の運命は一変する。もう一組の双子の姉妹、夕子と彩子に翻弄される達生。有香が待つ空港へ向かう達生の前に現れたのは...。
 
● 数人のスタッフキャストで即興撮影された、サスペンスドラマの傑作。作者にも作品の秘密が見えぬまま突き進むスリリングさ。撮影の行為そのものが「謎」を発見し、解放して行くライブ感を見よ。フィクションとノンフィクションを往復し、その狭間から「娯楽映画」が自ら生まれ出る、この不思議。作者が愛する大映ドラマ『赤い激流』に対する、自主映画によるアンサームービーでもある。
(にいやなおゆき)
 

aho.jpg2008年/12分/DV

 
監督・撮影・編集・出演:木村卓司
 
■ 制作中に敬愛する実相寺昭雄監督が亡くなられて凄いショックを受けて何か監督の演出された作品の中でも特にインパクトが強かった怪獣ジャミラの話の事を思いだして頭から離れなくなりました。あの 衝撃的なラスト。こんなん子供に見せていいんかいというめちゃくちゃハードなラスト。実はジャミラ は怪獣ではなくて奇形人間です。それをウルトラマンは殺します。ウルトラマンは人殺しです。ウルトラマンは何の罪も無いジャミラを世にも残酷なやりかたで殺すのです。ジャミラが哀れでなりません。
 
● ジャミラは出て来ませんが、あのジャミラの悲鳴が他人事には聞こえなかった人、今も耳の奥で鳴り続けている人たちの映画なのだ。過激な風景映画の傑作『さらばズゴック』で知られる木村卓司のエッセンスが凝縮された作品。ラスト、泣けます。
(高橋洋)

national.jpg2003年/100分/DV

 
監督・撮影・編集:西尾孔志 撮影助手:地良田浩之 音楽:小林祥夫
出演:小島祥子、和田純司、鼓 美佳、渡辺大介、中村哲也、三嶋幸恵、宇野祥平
 
■ 高橋洋監督の≪マブゼ映画≫『夜は千の目を持つ』に衝撃を受け、自らも≪マブゼ映画≫をと世間の無理解に抗うように孤独に作り上げた、総勢50名を越す登場人物による一大レクイエム。終末へと向う運命の中で、さぁ、お前自身の国歌(ナショナルアンセム)を歌え!
 
●「マブゼ映画」というものがあり、それは正伝を撮り上げたラングやハラルト・ラインルたちのみならず、ジョルジュ・フランジュやクロード・シャブロルが撮らざるを得なかったもの、リヴェットやゴダールや黒沢清が敬意を払い続けるもの、なのだ。それは何かの影響によってではなく、「使命」として撮られる。マブゼの有名な台詞「私は国家と交戦状態にある。私自身が国家なのだ」を西尾孔志は大胆に読み替えようとした。『ナショナルアンセム』は「マブゼ映画」であると共に「マブゼ映画」への挑戦でもある。
(高橋洋)
 
7/2(水)と9(水)上映

chiemi.jpg2005年/50分/DV

 
監督・脚本:横浜聡子 撮影:平野晋吾、四宮秀俊、柿成大、中西朋暁 音楽:山田耕治
出演:鈴木由美子、森下法雄、工藤麻奈美、百田一枝
 
■「青森の春は汚いー」。厳しい冬は終息の兆しを見せ、雪解けの季節が訪れた青森。その地で一人ひっそり暮らす女・のり子の前に次々と現れる、父、その恋人、幼ななじみたち。彼らは、真冬の吹雪の如く、のり子の過去を、現在を晒してゆく。主人公のり子を演じた鈴木由美子は、演技未経験、地元の街でスカウトされた大学生(当時)。
 
★ 映画美学校第6期高等科修了作品。
 
● 主人公のり子が、忘れていた過去を、唐突な回想シーンによって唐突に思い出す、その唐突さにはほんとうにびっくりする。現在にとって過去は、なんの郷愁もなしに、いきなり地続きなのだ。しかし、春の雪解けとともに雪に埋まっていた犬の糞が唐突に地表に現れ、それをのり子のナレーションが「青森の春は汚い」と冷静に語るシーンから始まるこの映画にとって、その唐突さはしっかり脚本に仕組まれていたのだし、それを書き、撮った横浜聡子はほんとうに聡明なひとだと思う。
(万田邦敏)

img02.jpg1997年/84分 日活

 
監督:北川篤也 脚本:高橋洋 音楽:トルステン・ラッシュ 劇中画:新谷尚之
出演:立原麻衣、白石ひとみ、嶋大輔、由良よしこ、若松武史、石丸謙二郎
 
■『美姉妹』で日活ロマンポルノイズムを継承した北川篤也の異端のVシネマ。独り暮らしのOLを盗撮・盗聴の末に惨殺した夫婦は彼女の友人を装い妹に近 づく。同化する姉妹、美味しすぎるシチュー、獰猛な大型犬...。Jホラーとは異なる「もう一つの恐怖劇」の可能性を切り開いた、脚本家・高橋洋の真骨頂。
 
●『蛇の道』『発狂する唇』など残酷劇(グラン・ギニョール)路線の一つの極まった形に至った手応えがあって、ことのほか思い入れが強い作品。なかなか見られる機会が少ない。北川監督はマンション空間の孤絶した捉え方や冷蔵庫の見せ方にトコトンこだわってくれた。この当時、僕は劇中に登場する殺人夫婦のアイデアにまったく取り憑かれていた。で、今もずっと取り憑かれている‥ 。
(高橋洋)

shiro.jpg2006年/11分/DV

 
監督:小出豊 撮影:山岡太郎、深田晃司、四宮秀俊、川口力
出演:吉岡陸雄、おぞねせいこ、大谷伸
 
■ 万田邦敏の呼びかけによる、仏教の十の戒律を題材にした自主制作オムニバス「十善戒」の中の一篇。夫は妻に暴力をふるい、妻は息子に暴力を振るった。淡々と進むカウンセリングで暴かれる、息詰まるその現実!
 
● 人形を相手にDVを再現しているだけなのに、生理的な痛みが伝わってくる映画である。それにしても、「再現を続けましょう」という医師の冷静な声を何度も聞いているうち、プログラムの本当の目的は何なのかという疑問がわきおこってくる。ひょっとしたら、このプログラムは暴力の再現に快楽を見出しているのではないか、と。
(井川耕一郎)
 

inu.jpg2002年/18分/DV

 
監督・脚本・撮影:粟津慶子
出演:外川恭子、仁藤かおり、関雅晴
 
■ 夜勤の週、部屋を真暗にして眠る男は、工場の風呂場の夢を見ていた。その風呂場には昨日、見知らぬ女が入っていたという。男が風呂場の戸を開けると、そこには温かく愛おしい眼差しが待っていた。
 
★ 第1回美学校映画祭井川賞受賞。
 
● 田舎町に住む人々がふとした瞬間に見てしまう妄想を描いた作品。その妄想の中に登場する女を見て、知人は「昔、ああいう女を夜の町で見かけたことがある」と言っていた。彼の話によると、長期にわたってピルを服用して夜の街角に立っていると、あんなふうに体が生っ白く肥えてくるのだという。果たしてその話がどこまで真実なのかは分からないが、『犬情』は見る者の中に潜む忌まわしい記憶や欲望をあぶりだす映画であることだけはたしかである。実に不吉な映画だ。
(井川耕一郎)

yamaarashi.jpg2002年/11分/16mm

 
監督・脚本:宮田啓治 撮影:遠山智子
出演:宮田啓治、松村弘行、山川宗則、松田晴行
 
■ 映画美学校第2期生が、1999年の修了制作直後に16mmフィルムをかき集めて撮影を行い、完成に3年を費やした短編。坂本龍馬、高杉晋作、桂小五郎を本気で演じ、激動の幕末を走り抜ける痛快作!
 
● 吹けよ風、呼べよ嵐、閃くは漸鉄剣。時代は狼を欲し、狼は狼を呼ぶ。風にざわめく森と大海原、そこに佇む三人の男達。たったそれだけで、幕末青春映画は成立してしまう。スクリーンに映し出される彼らこそ、坂本龍馬、高杉晋作、桂小五郎の、等身大の実物の本物、なのだ。実は、もしかすると、意外な事に、宮田啓治こそ日本のストローブ=ユイレなのかもしれない。
(にいやなおゆき)